事例Iを読んで,問題88から問題90の設問に答えなさい。

【事例I】
 Iさん(女性,42歳)は,息子のP (16歳)に対する家庭での指導のあり方について悩み,ある相談機関に訪れ,臨床心理士が面接した。Iさんによると, Pは第一志望の高校の受験に失敗し,不本意ながら第二志望の高校に入学したものの,1カ月ほど経った頃から学校を休みがちとなった。そして昼頃まで寝ており,夕方になると出かけて,中学時代の友人と夜遅くまで遊んで帰ってくるようになった。友人の中には, Pと同様に高校生活に馴染めず,すでに中退してしまった者もいるようであった。ある日, Iさんから急な電話があり,来所予約日よりも早いが,至急相談したいことがあるとのことだった。来所したIさんから担当の臨床心理士が話を聴いたところ, Pは遊び仲間と恐喝事件を起こして警察に逮捕され,現在警察署に勾留されて取調べを受けているとのことだった。

【問題88】

 母親のIさんは不安そうな様子で,これから「Pはどうなるのでしょうか」と質問してきた。Iさんに対する臨床心理士の次の説明の中から,正しいものを一つ選びなさい。

A.警察による捜査が終了した後,検察官に事件が送致される。犯罪の嫌疑はあるが,家庭裁判所の審判に付す必要はないと検察官が判断すれば,事件を家庭裁判所に送致せず,不起訴とする可能性がある。

B.Pは未成年なので,家庭裁判所で審判を受けることになるだろうが,家庭裁判所の調査の結果よっては,審判が開始されないこともある。

C.家庭裁判所に事件が受理されると,家庭裁判所調停委員による調査が行われる。

D.恐喝は悪質な事件なので,検察官は家庭裁判所に事件を送致せず,地方裁判所で成人と同様の裁判を受ける手続きを進める可能性がある。

E.家庭裁判所はPを審判に付し,少年院送致か少年鑑別所送致の処分を下す可能性がある。

【問題89】

 前回の相談から10日後, Iさんから連絡があり,Pは少年鑑別所に送られたとのことだった。Iさんの説明を聞いていると, Iさんは少年鑑別所について正しく理解しているところと,誤って理解しているところがあるようだった。少年鑑別所について語ったIさんの次の説明のうち,適切なものに○,適切でないものに×をつけた場合,下のa〜eの組み合わせの中から正しいものを一つ選びなさい。

A.少年鑑別所では,心理検査や面接を行って, Pの性格の特徴や, Pが高校での生活や家族や友だちのことをどのように感じているのかについて,調べるそうです。

B.少年鑑別所で自分の犯した罪を深く反省して,まじめに生活していれば,早く出してもらえるそうです。

C.少年鑑別所では, Pの所内での行動観察などの結果に,外部から得られた情報を加えて検討し,家庭裁判所に提出するのだそうです。

D.少年鑑別所は, Pの資質の鑑別を行い,罪を償わせるところだそうです。

【問題90】

 Iさんに対する臨床心理士のアドバイスに関する次の記述のうち,適切なものに○,適切でないものに×をつけた場合,下のa〜eの組み合わせの中から正しいものを一つ選びなさい。

A.家庭裁判所は犯した罪に相応する罰を決定するので,決められた罰は甘んじて受けなければいけません。

B.家庭裁判所の調査では,保護者としてPについて考えていることや悩んでいることをきちんと話してください。

C.少年鑑別所に面会に行き, Pとこれからどのように生活を立て直していくかについて,話し合ってみてください。

D.Iさんの家の近くに住んでいる保護司さんを紹介しますので,その保護司さんの保護観察を受けてみたらいかがでしょう。






【問題88】
a 誤り(×)。検察官の判断で家庭裁判所送致の可否は決められない。

【橋口(2018)追記】
検察官は,犯罪の嫌疑があると認めたときまたは家庭裁判所の審判に付すべき事由があると認めたときに,事件を家庭裁判所に送致する.その際,少年に刑罰を科すのが相当か,保護観察,少年院送致等の保護処分に付すのが相当かなど処遇に関する意見を付す.また,家庭裁判所から,刑事処分相当として検察官に送致した少年については,成人と同様に刑事裁判所に公訴を提起する.ただし,少年については,死刑・無期刑の緩和,不定期刑の言渡し,少年刑務所への収容,仮釈放を許可するまでの期間の短縮などの特例が認められている(p. 439).

『公認心理師必携テキスト』(学研プラス)より

b 正しい(○)。家庭裁判所は,調査の結果,審判に付することができず,または審判に付することが相当でないと認めるときは,審判を開始しない旨の決定をしなければならない。

c 誤り(×)。調査を行うのは家庭裁判所調査官であって,調停委員ではない。

【橋口(2018)追記】
・家庭裁判所調査官(公務員),試験観察(*)を行い,保護処分(1〜3)のどれが適切なのかの判断をする資料を作成する。

(*)
・在宅試験観察:当人の自宅で観察
・補導委託試験観察:篤志家の家で観察

家庭裁判所は, 保護処分を決定するために必要があると判断したときは,決定をもって,相当の期間,少年を調査官の観察に付すことができる。これを試験観察というが,調査官の調査に併せて,適当な施設,団体または個久に補導を委託する措置を執ることもでき,これは補導委託と呼ばれる。試験観察は,いわば中間的な措置であり,一定の観察期間が経過した後,改めて審判が行われ,保護処分に付すかどうかが決められる(p. 183)。

『関係行政論』(遠見書房)より

d 誤り(×)。検察官の判断で,家庭裁判所または地方裁判所に送致する権限はない。

e 誤り(×)。家庭裁判所で審判が行われ,不処分(21.1%)か,保護処分 (22.9%)(1.保護観察,2.児童自立支援施設等送致,3. 少年院送致)か,検察官送致(刑事処分・3.9%)か,が決定される。少年鑑別所への送致は観護措置であって,保護処分ではない。

【橋口(2018)追記】

現在は,知事又は児童相談所長送致(0.2%)(軽微な非行,家庭の養育力低)もあるような。

<保護処分の種類>
1.保護観察(保護観察所・社会処遇)
・法務省設置法・更生保護法
保護観察官(公務員),保護司(篤志家)
社会復帰調査官(公務員)(← 医療観察制度(2005年))

*保護観察所には成人も処遇されている。

保護観察については,その経過により,保護観察を継続しなくとも改善更生することができると認められた場合は,良好措置が執られ,逆に社会内では改善が困難であると認められた場合は,不良措置が執られる。保護観察処分少年に対する良好措置には,保護観察の解除があり,不良措置には,警告および施設等送致申請がある。また,少年院仮退院者に対する良好措置には,少年院からの退院の申出があり,不良措置には,少年院への戻し収容の申出がある(p. 190)。

『関係行政論』(遠見書房)より

2.児童自立支援施設等
・児童福祉法
心理療法担当職員(主:学部心理学+心理療法経験1年)

*児童自立支援施設 = 不良行為を行った者(通所または入所

*児童養護施設 = 保護者がいない児童,虐待されている児童など(入所

3.少年院送致(矯正教育)
・少年院法
法務技官(公務員)(←少年鑑別所にもいる)
・第1種少年院(保護処分の執行)から第4種少年院(刑の執行)まである

第1種 
・保護処分の執行を受ける者
・心身に著しい障害がない
・おおむね12歳以上23歳未満の者(第2種少年院対象者を除く)

第2種
・保護処分の執行を受ける者
・心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだ者
・おおむね16歳以上23歳未満の者

第3種
・保護処分の執行を受ける者
・心身に著しい障害がある
・おおむね12歳以上26歳未満の者

第4種
・少年院において刑の執行を受ける者

(注)
平成19年5月に改正少年法が成立し,14歳未満の触法少年の事件において警察に捜索・押収などの強制調査権を付与,少年院送致の下限年齢を現行の14歳から「おおむね12歳」に引き下げ,保護観察中の順守事項違反を理由にした少年院送致を可能に,などが決まった。

【問題89】
A 正しい(○)。少年鑑別所は,主として,観護措置の決定がされた者を収容するとともに,家庭裁判所の審判等に資するため,少年の資質鑑別を行う施設である。

【橋口追記】
・法務省直轄
・少年鑑別所法
・法務技官(公務員)
・収容期間は2週間(*ただし3回まで更新可=最大8週間収容)

B 誤り(×)。観護措置による収容機関は少年法の規定(*現在は少年鑑別所法!?)によって定められており,反省の度合いや所内での生活態度によって収容期間の長短が決まることはない。

C 正しい(○)。鑑別の方法は,鑑別面接,心理検査,行動観察,医学的診断である。少年鑑別所では,それらの結果に外部から得られた情報を加えて検討し,鑑別判定を決定し,鑑別結果通知書を家庭裁判所に送付している。

D 誤り(×)。少年鑑別所は,少年の資質の鑑別を行うが,罪を償わせるために収容する施設ではない(*そもそもこの段階では審判は出ていない)

【問題90】
A 誤り(×)。少年審判の基本原理の一つに「保護優先主義」がある。これは,非行を犯した少年に対し,できるだけ刑罰によらず,保護処分その他の教育的手段によって非行性の除去を図ることに努め,刑罰はこのような教育的手段によることができないか又は不適当と考える場合のみに科す,というものである。したがって,少年審判は,犯した罪に対する罰を決めるためのものではない

B 正しい(○)。家庭裁判所の調査では,家庭裁判所調査官が少年のみならず保護者等に対して必要な調査を行うことになっており,少年の立ち直りを指導・監督する立場である保護者の考え方も重要視されている。

C 正しい(○)。少年鑑別所に保護者が面会に行き,少年と話し合うことは大切なことである。

D 誤り(×)。保護観察は,家庭裁判所の審判による保護観察決定などによって行われるものであり,個人の依頼によって実施されるものではない。また,保護観察を担当する主任官 (保護観察官)と担当者 (保護司)の指名は,保護観察所の長が行うことになっている。