【問題90】

 学校臨床心理士(スクールカウンセラー)が勤務している高校で, Bさんという男子生徒が,ゲームセンターで他の高校の生徒とトラブルになった際に,殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせるという事件を起こし,警察に通報された。傷害の程度は現時点では不明である。学校臨床心理士は担任教員から,今後,彼はどうなるのかと尋ねられた。Bさんは高校2年生で,年齢は16歳か17歳のどちらかである。Bさんの今後の経過に関する次の記述の中から,正しいものを一つ選びなさい。

A.被害者の傷害の程度が軽かった場合は, Bさんはぐ犯少年として,警察官から児童相談所に通告されることになる。

B.警察官から事件送致を受けた検察官は,被害者の傷害の程度が重いか否かによって, Bさんの事件を家庭裁判所に送致するか,起訴するかを決めることになる。

C.Bさんは,審判の前に少年鑑別所で鑑別を受ける可能性がある。鑑別の結果は,家庭裁判所の審判の資料になり,審判後の指導にも活用されることになる。

D.Bさんが傷害を負わせた被害者が死亡した場合には,いわゆる原則逆送制度の対象となるので,家庭裁判所で審判を受けることはなく,地方裁判所で裁判を受けることになる。

E.Bさんは18歳未満であるので,裁判を受けた場合,死刑の場合は無期刑に,無期刑の場合は有期刑に,短期の懲役刑の場合は禁銅刑にといった,刑の緩和がなされることになる。




 少年事件がどのように扱われるのかについて,スクールカウンセラーや青少年の問題行動に関する相談を受ける臨床心理士は正確な知識を有している必要がある。本問は,枝問1と同じ状況について,年齢設定を高くすることで,犯罪少年の一般的な取扱いと,重大な非行を犯した場合の取扱いについての理解を問う問題としている。中でも,平成12年の少年法改正により導入されたいわゆる「原則逆送制度」は,法律家や非行少年の指導に携わる専門家のみならず,社会一般にも広く知られている制度であるので,少年事件の取扱いに関する基礎知識として,臨床心理士にはぜひ知っておいて欲しいところである。

a 誤り(×)。傷害の程度が軽くても犯罪であるので, C君は犯罪少年であり,ぐ犯少年ではない。犯罪少年については,警察官は,罰金以下の刑に当たる犯罪の被疑事件は家庭裁判所に送致し,それ以外の刑に当たる犯罪の被疑事件は検察官に送致することになっており,本件は傷害事件なので障害の程度に関係なく,検察官に送致され,児童相談所に通告することはない。(少年法3条1項1号,3条1項3号)。

【橋口(2018)追記】

◯ 犯罪少年+警察官

→  攘據曄柄致) 家庭裁判所

→ ◆攴邸曄柄致) 検察官    (→(送致) 家庭裁判所) (→ (審判) 検察官送致=刑事処分) (→ 地方裁判所)

*警察官から先は罪の軽重で2通りある。


b 誤り(×)。旧少年法では,検察官が起訴猶予にした少年で保護を要すると認められた者だけを少年審判所に送致していたが(検察官先議),現行の少年法では,家庭裁判所へのすべての事件の送致
を捜査機関に義務付ける全件送致主義を採用している。(少年法42条)。

【橋口(2018)追記】

◯ 犯罪少年+検察官

→  柄致) 家庭裁判所

*検察官から先は罪の軽重に関わらず1通りしかない。

*検察官は少年法の範囲では送致しかできない(お約束は起訴)。

c 正しい(○)。審判前に少年鑑別所に収容されて鑑別を受ける可能性はある。少年法には,家庭裁判所の調査においては少年鑑別所の鑑別の結果を活用して行うよう努める旨の規定がある。(少年法9条)。

観護措置の期間は,2週間を超えることができないが,|特に継続の必要があるときは,決定をもって1回更新することができる。また,否認事件等一定の事件については,さらに2回を限度として更新することができるため,少年鑑別所の収容期間は最大で8週間である(p. 181)。

◯ 鑑別に関する最近の動きとして,再非行の可能性や教育上の必要性等を定量的に評価するための法務省式ケースアセスメントツール (MJCA) が開発され,2013(平成25)年から鑑別に活用されており,エビデンスに基づく科学的な鑑別の推進が図られている(p. 184)。

◯ 少年鑑別所は,保護観察所,児童自立支援施設・児童養護施設,少年院等の処遇機関からの求めによる鑑別も行っており,処遇方針の再検討や処遇効果の検証に役立てている(p. 184)。

◯ 少年鑑別所は,収容される少年が審判前という立場にあるため,少年院のように非行につながる問題性等を改善するための教育はできないが,健全育成に資する支援として,少年の自主性を尊重しつつ,生活態度に関する助言・指導や学習機会の提供等を行っている(p. 184)。

◯ 少年鑑別所法の施行に伴い,本来業務に位置付けられた。地域援助では,個人からの心理相談に加え,従来から少年鑑別所が蓄積してきた非行防止に関する専門的知識やノウハウを生かして,地域の非行問題に関するネットワークヘの参画,心理検査の実施,事例検討会への参加,研修会・講演・法教育への講師派遣等関係機関からの幅広い依頼にも応じている。少年鑑別所は,こうした地域援助業務を行うに当たり,法務少年支援センターという別名を用いることになっており,各法務少年支援センターでは,ホームページを開設し,相談専用ダイヤルも設けている(p. 185)。

『関係行政論』(遠見書房)より

d 誤り(×)。少年法20条2項の「家庭裁判所は,故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であって,その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るものについては,検察官送致の決定をしなければならない。」という規定がいわゆる「原則逆送制度」の規定である。また,20条2項ただし書きにより,保護処分の余地もあるので,家庭裁判所の審判を経ずに地方裁判所で裁判を受けるということはない。(少年法20条2項)。

e 誤り(×)。犯行時18歳未満であれば,刑の緩和はなされるが,対象となるのは死刑及び無期刑であり,有期の懲役刑は対象ではない。(少年法51条)。

2 凶悪重大犯罪を犯した少年に対する処分の在り方の見直し

 
(1) 犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件については,保護処分を適当と認める場合を除き,検察官送致決定をするものとする(第20条第2項)。

  (2) 少年法第51条により死刑を軽減して無期刑を科した場合においては,第58条第1号の少年に対する仮出獄可能期間の特則(7年)は適用しないものとする(第58条第2項)。

  (3) 18歳未満の少年に対し無期刑で処断すべきときは,現行法上必ず有期刑に軽減することとしているが,無期刑を科すか有期刑を科すか,裁判所が選択できるものとする(第51条第2項)。

『法務省HP』より